この世界は残酷なほど美しい
「いいよ、教えてあげる。流星くんの過去が蘇るのならいくらだってしてあげるわ」
「ありがとう、奈緒子」
そして僕はゆっくりと目を閉じ、奈緒子の過去へと世界を変えた。
乾奈緒子。
あ、これは現名字で。
昔の名字は馬渕。
8歳まで馬渕奈緒子だったけれど9歳からは乾奈緒子になった。
今から話すことは私がまだ馬渕だった頃の記憶。
流星くんは覚えていないと言ったけれど私はちゃんと覚えてる。
だって、流星くんは私の初恋の人だったのだから。
お父さんが肺炎で入院したのは6月下旬の頃だった。
私は病院が大の苦手。
理由はあの薬の匂いと、注射を思い出すから。
注射は大嫌い。
痛いし、気持ち悪いし、涙が出るから。
だけど大人になるにつれてそんなことを思わなくなった。
これが成長というものだろうか。
「美羽おねーさん!来たよー」
「奈緒子ちゃん、いらっしゃい」
私は隣の病室にいる美羽お姉さんに逢うのが唯一の楽しみだった。