ボーイフレンド
「さて、何が食べたいですか?」
「うーんと、お魚」
徹ちゃんと二人きりで夜の街を並んで歩いていることに少し緊張しながらも、なんとかいつも通りを装う。
「了解」
徹ちゃんは、いつも通りだ。
着いたお店は、漁師酒場風の居酒屋で、あたしは少し安心した。
恋人同士が行くようなお洒落なお店もよく知っている徹ちゃんだけに、そういうお店に連れて行かれるのではないかと心配だったから、徹ちゃんがそういうところを狙ってきていないことにほっとした。
二人きりで気恥ずかしいので、並んで座るカウンターの席もちょうどよかった。
「うーん、いい匂い!海の匂い」
いつもの調子を取り戻したあたしは、壁にぶらさがった黒板を見ながら声を上げる。
「ホッケ食べたい。あと……サザエのつぼ焼き!」
すると徹ちゃんはくつくつと笑って、
「酒飲みのおっさんじゃん」
おかしそうにそう言った。
「それって、褒め言葉?」
「もちろん」
それは、あたしを女として見てないってこと?
だったら安心できる。
ちょっと不服だけど、ね。