引っ込み思案な恋心。-2nd
ななっぺも安森先輩とのお付き合いは順調に行っているみたいだった。
先輩がもうすぐ卒業してしまうけど、受験生でもあるし…というので、思い出を作りたくてもなかなか難しいってこの前言ってたっけ。
「あっ、保護者の受付始めたみたいだね」
「ああ…、ドキドキする」
体育館の入口から少しずつ、コート姿の保護者が入ってきた。
…確かに、昨日のリハーサルとは全然雰囲気が違う。
上手く例えられないけど…
身内だけって感じじゃなくて、よそ行きの、少し背伸びしたような気持ちになる。
30分ほど経ち、保護者がだいたい入り終わった頃、今度は生徒が入場してくる。
普段、全校集会や学年集会をする時はステージに向かって縦に並ぶことが多いけど、合唱コンクールの時はステージへの入退場のしやすさを考えて、演奏の時の立ち位置通りに各クラス横に並ぶ。
こういう…普段と違う感じが、更に私の緊張感を高めていく。
…人が全部入ると、こんな感じになるんだ……。
「杉田さん、最初のアナウンスお願いできるかな?深呼吸して…ね」
「はい」
同じくサイドで立って控えていた音楽の先生に声を掛けられ、私は胸に手を当てて静かに深呼吸した。
昨日に比べると、胸のドキドキが止まらない。
こんなたくさんの人がいる中で、今から私の声が響くんだ──。
「柚、しっかり!」
「うん、頑張るよ」
ななっぺの小声の声援を受け止めて、私はマイクのスイッチを入れた。
静かに息を吸い込んで、昨日やったのと同じように手で台本を立てた。
「本日はご来場頂き、ありがとうございます……」
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