僕のミューズ


…そんなこと、できるはずがない。


『芹梨』


できるはずがない、けど。


『ショーって、ドレスが出来ただけじゃ未完成なんだよ。それを着て歩いてくれる人がいて、初めてドレスが息をするんだ。ドレスが息をして初めて、成功や失敗が生まれるんだ』


俺は無言で手話をした。

あっているかはわからない。
でも芹梨は、そんな俺の未熟な言葉を全て、飲み込む様に見つめてくれていた。


『俺だけじゃ未完成なんだ。完成させてくれるのは…芹梨、お前しかいない』


しんとした講堂の中、音のない真剣な想いが、どうか届いて。


『芹梨は、俺のミューズなんだ。俺を完成させてくれるのは…芹梨、お前だけだ』


向こう側の芹梨が、くっと唇を噛み締めるのがわかる。

微かに震えながら、俺の言葉を受けとる。

耳が聞こえる聞こえないなんか、そんなの何が関係ある。

声が出せる出せないなんか、何の意味がある。


今こうして、何の音もない世界で、俺は確かに芹梨に伝えている。


伝わっている。確かに。



『俺のドレス…着てくれませんか』




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