とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
何も起きなければいいんだが…
右京の視線に気付いたのか、連中の一人がこちらを睨んでいる。
「…何か…こっち見てますね…」
「ほっとけ。騒ぎ起こしたら教えて。」
右京は奥の従業員用の部屋に入ると仕事用のスーツに着替えた。
カウンターに入る手前で「ウェイターさん」とやたら露出度の高い女に呼び止められた。
「…何か?」
「カクテル…何か作ってくれる?」
谷間を強調してそう言う女に吐き気がする。
「あ~…オーダーあるから後で…」
いいタイミングでガクが「右京!」と呼んでくれて助かったと思いきや、カウンターに入った右京の目の前に女が座って思わずこめかみがピクリと動く。
グラスを取るフリをしてガクに「吐き気がする」と耳打ちする。
ガクは吹き出して「そう言うなよ」と右京の肩を叩いた。
右京は溜め息をついて「okay…」と手を挙げた。
「オーダーを伺いましょうか?お嬢さん…」
「マルガリータ。美味しいのでね…」
ねっとりとした声に嫌悪感が肥大する。
右京は無言でシェイカーを振った。
「ウェイターさん、新人?」
「いや…」
「あら、そうなの?初めて見る顔だから…」
「だろうな。…じゃなかったら俺に声はかけないだろ。」
そう言って口角を上げた。