とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
バフォメットはその巨体に似合わない素早い動きで右京との間合いを縮めると、尖った爪を振り上げた。
右京は敢えて避けるでもなくその爪を太刀で一閃する。
『悪いな。剣術は得意なんだ。』
半分に切り落とされた爪を見てバフォメットが雄叫びを上げた。
怒り狂ったようにブンブンと繰り出される拳を避け、右京は脇腹を斬り付けた。
だがそれに怯む事なく振り上げられる鋭い爪。
仰け反りながらかわすが頬を少し掠める。
頬を伝う一筋の血…。
『…この野郎…上等じゃねぇか!』
右京の瞳に光が増す。
右京は暗闇に紅い光を輝かせながら地を蹴って太刀を振り上げた。
バフォメットの折れていない爪がそれを受け止める。
ギリギリと力で押し合う爪と刀。
刀の刃がピキッ!と嫌な音を立てた。
─くっそ!…折られる!
腕の筋肉が軋むのを感じながら、右京がバフォメットの爪を押し返すと同時にパリン…!と刀が折れた。
『チッ…!』
右京は直ぐさま手の平を突き出すと爆風を巻き起こして巨体を弾き飛ばした。
バフォメットは四つん這いになりながら堪えると、砂ぼこりを上げながらコロッセオの壁ギリギリで止まった。
悔しそうに唸りながら怪物は跳躍をしてコロッセオの外壁の上へ飛び乗った。