とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
クリスが自分を取り囲むルー・ガルーを一掃し終え、コロッセオに入ったのは数十分後だった。
先ほど自分が相手をしたバフォメットはフェイク…。
もし右京が今相手をしているのが本体なら、さすがに独りでは厳しいかもしれない。
それに気になるのが右京のあの表情だ。
だだっ広い場内を見渡すと東側の一角でモクモクと上がる砂ぼこりが見えた。
その光景の異様さに気付く。
ざわつく胸を宥めながら階段を降り砂ぼこりに近付く。
辺りはあちこちに真っ赤でペイントであることを祈る。
が、その生々しい“赤”は紛れもなく血だと理解するのに時間はかからなかった。
─まさか…右京が!?
一抹の不安を圧し殺し目を凝らす。
埃の向うにゆらりと見えた影にクリスは息を飲んだ。
“クスクス…”
インカムから聞こえる場違いな笑い声。
『…“神よ…彼をお許しください”…。』
紅い瞳を細め、口元に笑みを浮かべた銀髪の──
──“銀髪の鬼神”──
両手から滴る血の舐める、そんなおぞましい姿でさえ美しく…
クリスはただ唖然とその様子に目を奪われて動けなかった。