とある堕天使のモノガタリⅢ ~ARCADIA~




忍はグラスに注がれたワインに一気に飲み干した。



その手が微かに震えているのに気付いてニコールは『大丈夫かい?』と声をかけた。



『ええ…大丈夫です。
…ニコールの話に少し動揺しただけです…』



少しではなく、かなり動揺しているだろう忍にニコールは微笑む。



『あのセイレーンの話だと、正確な場所が特定出来ないらしいんだ。
だから俺達は足を使って探すしかない。』



『そうですね…内陸部は山でしょうし…』



『おまけに主要都市から離れたら通信手段も皆無に等しい。』



そんなに大きな国ではないが、先進国ではない為交通手段も期待しない方がいいだろう。



『私は大丈夫ですが、ニコールは心配ですね…インドア派にしか見えませんし…』



『足を引っ張らない様に頑張るよ。』



ニコールがニッと笑ったのを見て忍も口角を少し上げた。



ニコールは忍に手を差し出す。



『ヨロシク頼むよ、パートナーとしてね…』



『こちらこそ。』



握り返した忍の手はもう震えてはいなかった。



その代わり緊張しているのか、少し熱っぽい。



だがそれは自分の熱かもしれないとニコールは思った。



それくらいこの旅に自分もは期待しているのだとニコールは気付いた。






─待ってろ、クロウ!

絶対見つけてやるから!─





< 44 / 461 >

この作品をシェア

pagetop