とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
忍はグラスに注がれたワインに一気に飲み干した。
その手が微かに震えているのに気付いてニコールは『大丈夫かい?』と声をかけた。
『ええ…大丈夫です。
…ニコールの話に少し動揺しただけです…』
少しではなく、かなり動揺しているだろう忍にニコールは微笑む。
『あのセイレーンの話だと、正確な場所が特定出来ないらしいんだ。
だから俺達は足を使って探すしかない。』
『そうですね…内陸部は山でしょうし…』
『おまけに主要都市から離れたら通信手段も皆無に等しい。』
そんなに大きな国ではないが、先進国ではない為交通手段も期待しない方がいいだろう。
『私は大丈夫ですが、ニコールは心配ですね…インドア派にしか見えませんし…』
『足を引っ張らない様に頑張るよ。』
ニコールがニッと笑ったのを見て忍も口角を少し上げた。
ニコールは忍に手を差し出す。
『ヨロシク頼むよ、パートナーとしてね…』
『こちらこそ。』
握り返した忍の手はもう震えてはいなかった。
その代わり緊張しているのか、少し熱っぽい。
だがそれは自分の熱かもしれないとニコールは思った。
それくらいこの旅に自分もは期待しているのだとニコールは気付いた。
─待ってろ、クロウ!
絶対見つけてやるから!─