sweet. Love. shower.
『ならまた実家帰って来たら連絡しろよ。また飯でも行こう。』
『うん。佳、今日は時間つくってくれてありがとね。』
佳が運転する車はハザードを2回光らせ、見えなくなった。
『…あ。』
ふと時計を見ようと腕に目を向けると、シャツの袖口に茶色い染みができていた。
佳がいつも飲むコーヒーの香りだ。
『も~、このシャツ買ったばっかりだったのにー。佳のばか。』
佳と私は幼なじみで、幼稚園から中学までずっと一緒だった。
野球をずっとしている佳は、高校、大学と野球の推薦で入った為、普通科をすすんできた私とは別の学校だった。
けれど、お互いの家まで徒歩5分。
だからこうやって時間が合うと、ドライブを兼ねて近くのカフェに二人で行っていた。
佳の黒い車に何回乗せてもらっただろうか。
お互い、はじめは彼氏彼女がいないこともあって、気兼ねなく誘えたのだ。
佳といるといつも本当に楽だ。
付き合いが長い分、気を遣わなくていいし、黙ってたって何も言われない。
お互い、今何を考えてるのかが分かることも多々あった。
だが、来週からはそんな佳に会えなくなるんだ。
1ヶ月前にできた2つ歳上の彼氏が転勤で山口県に引っ越すというので、悩んだ挙句、仕事を辞めて彼にくっついて行くことにしたのだ。
『遠くに行っても頑張れっていう御守りってことかな…。』
茶色くなった袖口を見て、そんな前向きなことを考えた自分がなんだか情けなくなって笑ってしまった。
『さて、引っ越しの準備しようかな。』
風が吹くと、再びコーヒーの香りがした。
< 2 / 13 >

この作品をシェア

pagetop