桜の花びら舞う頃に
「あ、あの……」



レストランを出たところで、エリカは龍一に声をかけた。

ゆっくりと振り返る龍一。



「あの……お兄ちゃん……」



その瞬間、龍一の目が鋭くなる。



「あ……ごめんなさい、お兄様……」


「外では『お兄様』と呼べと、あれほど言っているだろうに……」



龍一は、吐き捨てるように言う。

その言葉に、思わずエリカはうつむいた。


「まあいい……それよりも、だ」


龍一は、エリカを背を向ける。



「これが何なのか、お前はわかっていないのか?」


「……う、うん」



エリカは、龍一の背中に答える。

龍一は大きくため息をつくと、窓に向かって通路を歩き出した。



「お前と津上くんは、婚約するのだ」


「な~んだ、婚約かぁ……って、えええっ!?」



驚き、顔を上げるエリカ。


「お、お兄様……冗談とかじゃ……」

「俺がそんな人間ではないことを、お前は良く知っているだろう?」

「う……はい……」


エリカは、がっくりとうなだれる。


「不服か?」

「そんなの、当たり前……」

「彼は……」


龍一は、エリカの答えを待たずに話し出す。


「津上くんは、いずれ日本の医療業界を背負う男だと、俺は見込んでいる」


窓から外を眺める龍一。

その眼下に広がる街並みは、壮大で果てしないものがある。





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