桜の花びら舞う頃に
キッチンからは小気味良い音と美味しそうな香り、


そして、



「た~君、それ、ここに入れて」


「こう?」


「わ~、た~君、上手ねぇ!」



楽しそうに料理をする声が聞こえてくる。



「ああ……こういうのって、いいよな……」



隣りの部屋の悠希は、目を閉じて、その状況に酔いしれていた。




「……あれ? お塩が切れちゃった」




そのとき、さくらの困ったような声が響いた。


「さくらちゃーん、流しの上の戸棚に入ってるよー!」


悠希は、キッチンにまで聞こえるくらいの声で言う。


「戸棚かぁ……」


さくらはつぶやいた。

見上げた戸棚は、とても高くそびえている。






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