青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「前から」
母さんとも諍いがあったんだ…、だから、一緒にいたくないのもあるんじゃないかと思う。
シズは微苦笑を零して自分の暮らしていた部屋を見つめた。
「母さんに…、金がないと言われていた」
それで自分にバイトでもなんでもいいから、金を稼ぐよう言われて。
表向きは生活費がないと言っていたが、単に自分の金がなかっただけだと思う。
いや愛人に貢ぐ金というべきか。
しきりにバイトを言われて、遊びばかりじゃないかと文句を言われて、仕舞いにはつるんでいる仲間と縁を切るよう命令された。
それが自分を堕落させる原因だ、と。
やけにそれが腹立たしかった。
自分のことばかりじゃないか、なんでそこまで言われる義理があるんだ。ムカツク。
シズの声に感情がこもる。
「この話…自分でケリをつけて、いつか笑い話にする…予定だったんだ」
「だが」ヒトリじゃ何も出来ないらしい。
困った、本当に困ってしまったとシズは苦笑を絶え間なく漏らす。
親を憎めばいいのか、自分の不甲斐なさを嘆けばいいのか、どうすればいいのか分からない。ただただ苦笑を零している。
シズの語りを黙って聞いていた俺は思った。
そうか、シズがメシが不味いと、食えなくなったと、美味しくないと言い始めたのはこのせいだったのか。
シズは辛かったんだ。
メシが美味しいと思えなくなるほど、追い込まれていたんだ。
だけど自分じゃ気付けなくって、辛いと思うのも悔しくて、すべての感情を食にぶつけていたんだ。
食べる代わりにシズがあんなに俺達と楽しそうに喋っていたのは、背景に家庭の陰があったから。
昼寝が見受けられなくなったのは、眠ると現実が蘇ってくるから。
俺達に頼らなかったのは、俺達とは笑って過ごしたかったから。
辛い心境を教えて、俺達まで辛くさせるのが嫌だったんだろう。
ちゃんと食事をしているのか尋ねれば、「金はあるから」コンビニで済ませていた、とシズ。
けれど食事には困らなかった、あまり食欲もなかったしな。
困ったのは寝る場所だけだと、不思議そうな顔で首を傾げている。
辛いくせに辛い、が分かってないんだ。シズは。
ほんと、鈍感な奴だ。