青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「噂の先輩、知りませんもん。私の知っている先輩は、いつだって半紙と真剣に向かい合う姿でしたし。今、私をフルボッコにするっていうなら話は別ですけど?」
私、好きだったな。先輩の書く字。
毛筆をしている先輩をいつも見ていたんですよ。本当に上手でした。
男のクセにここまで綺麗に書けちゃうのか!
それとも、私には才能が無いのか!
なーんて嫉妬もしましたよ。
波子先輩がいつも敵視していたのも分かります。
だから圭太先輩が習字教室をやめると知った時は、結構ショックでした。
もう習字をする姿、リアルで見られないのか。そっか。なんだか残念だなぁって。
こんなこと話し掛けておけば良かったなぁ、なーんて、ね。
結構才能あったんじゃないですか? 圭太先輩。
どうして書道部に入部しなかったのか、私には不思議ミステリーですよ。
それどころか、あらあらまあまあ、不良になっちゃって!
習字教室に通えなくなったグレが素行に出たのかと思いましたよ!
「どうして先輩がいいか。うーん、実を言えば私の我が儘も入ってるんですよ。もう一度、先輩の字が見たいなぁっーって。美しい字は何度見たって損ないですもん」
「美もいつかは枯れるって。俺、三年も筆触ってないし」
「枯れ木に花を咲かせましょう精神でもう一度、書いてみて下さいよ。ね、先輩。お願いしますって!」
詰め寄ってくる堤さんに、やや怯みながら「でもなぁ」どうしても俺は毒舌の波子と関わりを持ちたくなかった。
あいつに関わると最後、地獄の果てまで勝負の決着をつけられそうでつけられそうで。
どんだけ先に級を取りたかったんだって話だよ、まったく。
「じゃあ」先輩の名前は伏せますから、波子先輩にも内密にしますから、堤さんは両手を合わせてウィンクしてくる。
「匿名で書く、はどうですか? 仮にばれたとしても、絶対圭太先輩とは勝負させないって約束します。これでどうでしょう?」
そんなことできるかなぁ、あいつのしつこさは蛇並みだぞ。
んでもって堤さんも大概でしつこい、その粘り強さは接着剤以上だ。
彼女の言葉に半信半疑の俺、一方で何度も頼み込んでくる堤さん。
まあ、此処まで頼み込んでくる彼女も切迫してるんだろうな。
それに人間ってのは現金な性格なもので、自分のことで褒められたりすると調子に乗っちまうんだよな。
まったく俺って現金。