青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―


人数が減っても、此方の劣勢は固定されたまま。分が悪いことには違いない。

皆、長身だから体躯の小さい自分にとってなんともかんとも腹立たしい状況下である。

背後にいる負傷者達に視線を流し、自身に言い聞かせる。


これくらい自力で乗り切らないと弟分として名が廃る。
 

自分は馬鹿だから手腕しかなく、我武者羅に相手を蹴散らすことかしかできない。

兄分の舎兄のように手腕プラス、チームを纏めるなどといったカリスマ性など持ち合わせていない。

手腕しかない馬鹿だから、もしかして自分は舎弟として選ばれないのではないだろうか。

頼りないから舎弟に選ばれないのではないだろうか。


手腕以外に何か身につけようとしても、てんで駄目な自分だから、だから。


常に胸の内で抱いていた暗い感情を振り切るように、床を蹴ってひとりに回し蹴りを食らわせる。

個々人なら確実に打ち取れるのだが、複数になると人数の多さと体躯の差で必ずダメージを受ける。

今もひとりを打ち取ったと同時に、横からスイングが飛んできて体勢が崩されてしまう。

滑るように床に倒れ、「骨折れてないよな」ミシッと軋む肋骨部分に手を当てた。

最近の喧嘩は本当に物騒だ。
拳の時代は廃れたのかもしれない。
 

「おいチビ! 立て、来るぞ! ッ、ヅ」
 

谷の怒号は途中で掻き消える。

嗚呼、きっと不良にヤられているのだ。

視界端に映る光景は川瀬を庇おうと、必死に体を張っている谷の姿。


背や腹を蹴られても、川瀬の前から引くことはしない。


「渚!」


川瀬の金切り声が上がる中、くっそうとキヨタは無理やり上体を起こす。

はぁっと吐く二酸化炭素さえ痛み帯びていた。呼吸が苦しい。

脇腹を押さえ、脂汗を額に滲ませるキヨタは頭上に気配を感じ、奥歯を噛み締めた。

回避は不可能。




刹那、時間が止まる。




瞠目するキヨタは何が起きたのだと痛みを忘れる。

満目一杯に映った光景は庇われている背。

あの刹那の単位でキヨタは見ていた。


振り下ろされるバットの影と、直前で見えたスライディングしてくる足、そしてジャージ姿の誰かの背を。


「け…、ケイさん」


掠れた声で名を紡ぐと、同じ野球道具で振り下ろされたそれを受け止める兄分が一瞥し、相手に舌打ちした。
 
 
「あんたっ、よくも俺の、俺の弟分を可愛がってくれたな―――ッ!」
 
 
今の俺はすこぶる機嫌が悪いぞコンチクショウ。

毒づく兄分は不良の脛を蹴り、バットを左に流すとキヨタの体を庇うように押し倒す。

驚きなされるがままのキヨタの瞳には、咄嗟の判断で振り下ろされるバットを右の手の甲で受け止める兄分の姿が。

心臓が鷲掴みにされた気分だった。

兄分に守られている。
手腕のない兄分に守られている、なんて。


それでは駄目なのに。

 
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