青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「千草っ」
谷は負傷している舎弟の片割れに声を掛ける。
そしてやられている右足を見るや否や、「お前それ…」意味深に心配の念を口にした。
「いいさ」
川瀬は足なんてどうでもいいのだと諦め気味に苦笑を零す。
「もう部生じゃないんだ。負傷しようが何しようが構わないだろ。アンちゃんには怒られそうだけど」
まったくだと谷は悔しさを滲ませ、「よくも千草の足を」不良達にガンを飛ばした。
これでも矢島の舎弟として名を語るための大事な商売道具だったのに。
それ以上に足だけはいつだって努力し、大事にしてきたのに。なのに。
そんな二人の前に立ったのはキヨタだった。
肩で息をしながら、「よわっちいのは」引っ込んでろ、と一蹴する。
カッチンときた谷がなんだと、と声音を上げるものの、
「アンタはそいつをみてろ」
これは自分の役目だと切れた口角を手の甲で擦り、生唾を飲んだ。
守りながら喧嘩するなど、今の自分に芸達者なことはできない。
だから守りに回れ、キヨタは谷に言うと両掌で拳を受け止め、そのまま相手の手首を掴むと、自分側に引き寄せて裏拳をかます。
更に右隣で道具を所持している不良が勢いに任せて向かってきたため、相手の勢いを利用して突小手返し。
相手の手を取り、体勢を崩させると勢いのままうつ伏せ状態にさせる。
腕を捻って野球道具を取り上げたキヨタは、次はどいつだと目を眇めた。
負傷者が出ている今、自分が率先して動かなければ。
この中で手腕があるのも自分である。
時間稼ぎのために進んで動かなければ。
「こっちもいるってこと忘れるなよ!」
ガンッ。
出入り口の扉をバットで叩くモトが自分の存在を忘れるなと言わんばかりに吠えると、来いと挑発して廊下に飛び出した。
「あんの馬鹿!」
キヨタは舌を鳴らす。親友は逃げたのではない。
負傷者達のため、率先して動く自分のため、部屋から数を減らす作戦に出たのだ。
確かに数が減ればスムーズに相手を伸せる。
けれど親友の出た行動は危険そのもの。
飛び出したモトを追えと視線でコンタクトを取るひとりの不良によって、三人が外に飛び出る。
三人も親友の下に行ってしまうなんて、キヨタはしかめっ面を作った。
モトが三人をいっぺんに相手取れるとは思えない。
早く目前の相手達を打ち取ってしまいたいのだが。