ONLOOKER
「今日くらいジャケット着なよ。そろそろ紅先輩が来る頃じゃない?」
シャツの上にオーバーサイズのカーディガンを羽織っただけのいつもの服装を見て、夏生は言う。
今日は淡い黄色だが、ピンクや水色やオレンジなど、カラフルなパステルカラーが日替わりになる。
派手な髪色と派手な服装は、もはや彼のトレードマークのようになっていた。
夏生の言葉に反応して、聖はぎゅっと眉を寄せた。
「え、なに、紅先輩来るって。生徒会室抜け出して来てんの? まじで?」
「うん」
「おまっ……なんだよ! なんか登校するなりいきなり拉致られて連れて来られたと思ったら!」
「共犯ね」
「ね、じゃねええええええ」
突然焦り始める聖に対して、夏生は全く動じる様子もなく手元の原稿をばらりと開く。
練習するでもなく、文章を改めて推敲するでもなく、ただ視線を流しているだけだ。
聖は夏生のジャケットの裾を引きながら、落ちつかなげに言った。
「なー、戻ろうよ」
「やだよ。実行委員のミスのフォローに駆り出されて今すごい忙しいんだから」
「余計戻ろうってええええ!」
その時だった。
聖の情けない声に混じって、ペントハウスの方から、足音が聞こえてきたのは。