ONLOOKER Ⅱ

 * *

自分は今、人質なんだろうか、と、准乃介は考えていた。
これでも人質と言っていいのだろうか、と。

けれど、この状況で人質に取られているというのもなんだか、なんだ。
いまいち気分も乗らない。

普通は人質ってどんな感じだろう。
そんなの、普通は人質になったりしないのだから、わかるはずもない。

一人問答を頭の中で終えて、見ると、真琴が困った顔をしていた。
心配性で気の弱いこの後輩は、大抵いつでも困った顔をしている。

とりあえずは、今の自分の状況なんかよりも、切断された通話が気にかかっている。
どうしているだろう。
あの人がもし心配してくれていたら嬉しい、けれど、しっかりしているように見えて変なところで冷静さを失うから、焦って考えなしに行動したりしなければいいのだけれど。

そう考えながら、目にかかった長い前髪を、縛られているわけでもない手で払った。

その時、向かいに座る彼(──うん、彼)が、手にしたティーカップをテーブルに置いて、扉に目をやった。
向こうがやけに騒がしい、という意味のことをとても上品な口調で言って、上品な表情で上品な仕草で、自分の背後に姿勢よく仁王立ちしている男に、見て来なさい、と命令を告げる。

さすが、態度でけぇな、あー、髪切りたいな。

取り留めも脈絡もなく考えながら、ふ、と溜め息を吐いて、機敏な動きで男が扉に近付くのを目で追っていた。
真琴も同じようにしている。

だが、男が手を伸ばしたとき、扉が、開いた。
男は少しも触れていないのに、だ。

扉の向こうに、五つの人影が見えた。
そのうち三人が、准乃介たちを見て驚いた顔をしたけれど、きっとこちら側にいた人間も皆、同じくらい驚いていたに違いない。

その人の真っ黒な眼の奥に見えるものが、驚愕と戸惑いと、そして安堵だと分かったとき准乃介は、やはり嬉しく思った。

 * *

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