ONLOOKER Ⅱ

 * *

『おい……誰だ、お前たち!?』
『痛い目に遭わされたくないなら止まれ!』


焦って喚く男たちから聞こえるのは、訛りもない流暢な英語だし、彼らはどう見ても中国人でも日系人でもない。
情報を流す役まで周到に用意していたわりには見張りも少ないし、こんなところで詰めが甘すぎると思いながら、直姫は夏生のあとについて歩いていた。
武器も持たずに脅しをかける男たちの言葉など、無視を決め込んで進む。

ビルの外に残っていた五人は、事態の真相を知ると、すぐにあの汚れた扉を押し開けて、中へ入った。

二人が通った道は、真琴からの報告で聞いて、きちんと覚えている。
それほど広くないビルの中だ。
人間二人を隠しておける場所なんてないだろう。

そして、辿り着いた先には、“あの人”もいるはずだ。
彼らの踏み出す足に、躊躇はなかった。


『おい、誰だと聞いているだろう! 答えろ!』


男の一人が、夏生の肩に手をかけて強引に振り向かせる。
氷のような視線に怯むこともなく、脅すように低く唸ったが、もう一人は慌ててそれを止めに入った。


『おい、やめろ! 彼らが誰か知らないのか!? 絶対に傷つけるなと、彼に言われているだろう!』


二人の男は終始戸惑いっぱなしだった。
ここまで車を持って来るよう指定したくせに、彼らが中まで入ってくることは予想していなかったのだろうか。

男たちの会話を聞いて、恋宵が怪訝に眉を潜める。


「……どういうことにゃの、」


その時だった。
言いかけた恋宵が、不意にまったく別の方向を向く。

彼女の人よりも優れた聴覚は、ある“音”を捉えていた。


「……?」
「恋宵? どうした」
「……声……が、する」


そう言って恋宵は、ひときわ大きな、白い扉へと走り寄った。
紅や聖も近寄って耳を当ててみるが、防音なのか、さっぱりなにも聞こえない。

だが恋宵はもう一度、中の音に反応した。
声がする、と再び呟く。

その時、やけに頑丈そうなその向こうから、紅たちにも聞こえる声が、微かに、けれど確かに聞こえたのだ。

 * *

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