恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「なんか……急に引っ越しが決まって、島にも言葉にも習慣にもなかなかなじめめなくて。緊張の毎日で」


それに、大我のこと、ひかりのこともあって。


ご飯とか、それどころじゃないくらい必死だったから。


誰にも言えなくて、相談できる人もいなくて。


息をするのも苦痛だったから。


ふうー、と海斗がため息を返してきた。


「やっぱりそうかあ。気持ち、分からんでもないけどね。でも、食べないとだめさ」


「……うん。ちゃんと食べるようにする」


「約束だよ。陽妃」


そう言って、海斗はあたしの手を握った。


「やだ。ほんとに、海斗の手はいつも冷たい」


へんなの。


でも、どうして海斗の手に触れていると心が穏やかになるんだろう。


どうして、素直になれるんだろう。


「あたし、寂しかったのかもしれない」


ぽつりと本音が口を飛び出していた。


「あたし、ひとりに慣れてないの。東京はどこもかしこも人だらけだったから。でも、この島は人が少なくて」


寂しかったのかもしれない。


「ひとりだと思うな。陽妃」


「え?」


「おれが、いつもそばにいおるよ。陽妃」


海斗の瞳を見た瞬間に、あたしの中でピンと張っていた何かがはじけて、プツリと切れてしまった。


「ひとりだと思うな」


泣きたいわけじゃなかった。


泣くつもりも、さらさら無かった。


けれど、心と体は裏腹で、涙が溢れて歯止めがきかなくなっていた。


ひとりだと思っていた。


大我に別れを告げられた、あの瞬間から。


あたしは勝手に決めつけていたのかもしれない。
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