恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
相変わらず、あったかい手だ。


これじゃ、どっちが熱があるのか分からなくなってくる。


お母さんの手より、あたしの額の方がひんやりしていた。


「うん。熱、下がったみたいね」


ほっとした表情を浮かべたお母さんを、わたしは笑ってしまった。


「なに笑ってるの?」


お母さんがきょとんとして首を傾げた。


「ううん。別に」


ただ、少しだけおかしかった。


東京生まれ東京育ちのお母さんでさえ、この島の暑さなのか、手のひらに熱がこもっている状態だっていうのに。


どうしてかな。


どうして、島生まれの島育ちの海斗は、いつもあんなにひんやりした手のひらなんだろう。


別にひとつも笑えるようなことでもないのに、なぜか笑えた。


ふふ、と笑って、お母さんが言った。


「へんな子ね。お粥、食べれる?」


「ああ、うん。食べる」


そういえば、お腹ぺこぺこだなあ。


この島へ来てから、まともな食事なんてしていなかったから。


熱々のお粥をふうふう冷ましながら食べていると、お母さんがぷっと吹き出した。


「……何? 娘がお粥食べてる姿って、そんなに可笑しい?」


ううん、とお母さんは首をふるふる振った。


「なんだか、久しぶりに見たような気がして。さっきみたいに笑う陽妃も。美味しそうに何かを食べる陽妃も」


お粥をすくいかけたレンゲをとめて、あたしは苦笑いした。


確かに、その通りかもしれない。


「海斗くん」


お母さんの口から飛び出した名前に、ドキッとした。


「えっ!」


クスクス、お母さんが笑った。


「楽しい? 海斗くんといると。あの子と仲良くなってから、陽妃、少しずつ笑うようになったから」
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