恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「いいんじゃない? 沖縄って南国じゃん」


パラダイスじゃん、なんて。


冗談を言って笑い飛ばす余裕さえ、あの時のあたしにはあった。


その時、あたしは4月に高校2年生になったばかりだった。


気の合う友達と毎日楽しくやっていたし、1年の頃から付き合っている彼氏とも順風満帆で、この上なく幸せだった。


だから、まさかお父さんがそんな事を本気で言っているなんてミジンコも思っていなかった。


「与那星島はね、父さんと母さんの想い出の島なんだよ」


新婚旅行で行った島なのだそうだ。


「へー、すってきー! なになに、じゃあさ、あたしってハネムーンベビーだったとかいう?」


なんて、まったく興味がないくせに興味深々な態度をとりながら、適当に聞き流していた。


「本当にいいところなんだよ。聞いてる? 陽妃(はるひ)」


「きーてるきーてる」


「海の水は透明だし、空は青いしね」


水は透明で、空は青い。


何言ってんだか。


そんなの当たり前じゃん。


「へー、そうなんだあ」


水は透明なものだし、空は青いものだ。


「夕陽が沈む瞬間は神秘的でね。南十字星も観測できるんだよ」


楽しそうに、懐かしそうに、お父さんは語り続けた。


「何より、島の人たちがみんな親切でね。とても温かい人たちなんだ」


「ほおー」


「でね……陽妃? 聞いてる?」


「はいはい、ちゃんと聞いてるって」


彼氏からのメールに返事を打ちながら半分以上聞き流していた時、それは告げられた。


「だからね、陽妃」


送信しようと思った次の瞬間、
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