恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
――いいね、陽妃。よぉく聞きなさい。今、あんたが来る前さぁ。ウシラシがあったよ


――それは良い方の? それとも良くない方?


薬を飲ませながら聞いたあたしに、おばあは小さく微笑んだ。


――いい報せさぁ


まるで、最後の力を振り絞るようなか細い声だった。


――カフーさぁ


そう言って、あの日、おばあはあたしのぺったんこのお腹に、そぉーっと触れて。


――大切に。大切にしよーさい


そして、涙をひと粒こぼした。


――あんたたちによぉーく似た、可愛い子やんどー


――……えっ


固まるあたしに、おばあは言った。


――カフーになるんは難しいさぁ、陽妃。やしが、カフーから逃げたらあらんさぁ


そして、それが、最後に聞いたおばあの声だった。


――オバァ、疲れてしまったさぁ。ちょっちゅ眠ろうねぇ


とても弱々しい、でも、しっかりとした口調だった。


――カフーアラシミソーリ


幸せが訪れますように。


翌朝。


――おばあ……? おば……おばあー!


おばあはニライカナイへ旅立って行った。


そしてそれは、あたしのお腹に新しい命が宿ったことが発覚したのと同じ日だった。


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