恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
9月15日。


雲ひとつ見当たらない晴天で、とても穏やかな日だった。


あれからもうすぐ1年になる。


「見て。おばあ」


あたしはおばあに見えるように、海の向こうにあるというニライカナイの方へ体を向け、大きく膨らんだお腹を撫でた。


「こんなに大きくなったの。もうすぐ生まれるんだよ。おばあにも抱っこして欲しかったなあ」


お墓の周りには、たくさんのブーケンビレアが咲いている。


「もう名前も決めたの。もちろん、ふたりで。まだ内緒なんだけどね」


あたしは微笑み、静かにお墓に両手を合わせた。


「あのね、おばあ」


おばあがニライカナイに行ってから、いろんなことがあったの。


きっとおばあのことだから、知ってるかもしれないけど。


島の診療所に、今年の春からお医者さんがひとり、増えたの。


産婦人科のエキスパートだよ。


島袋先生。


そうだよ。


葵ちゃん。


だから、今この島には優秀なお医者さんがふたりもいるの。


心強いでしょ。


ああ、美波ちゃん?


元気だよ。


今じゃ“島の診療所のマドンナ”なんて言われるくらい美人なんだから。


ちょっぴりおっちょこちょいだけど。


それからね……。


「あー、いたいた」


振り返ると、そこには彼が立っていた。

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