恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「……え?」


あたしは一気に体の力を抜いた。


目をぱちくりさせると、海斗が笑った。


「こうするとさ、涙が止まるんだって」


と海斗はあたしの額に自分の額をそっとくっつけて、ニッと笑った。


びっくりした。


てっきり、キスでもされちゃうのかと思った。


大我のことを忘れていないくせに、あたしはなんて不謹慎な事を考えたんだろう。


「小さい時、おれが泣いると、いーつも母ちゃんがこうしてくれたよ」


「そうなの?」


額をくっつけたまま、海斗が小さく笑った。


「涙が止まるおまじないさー」


「嘘ー」


あたしが笑い飛ばすと、額を離して海斗は言った。


「嘘じゃないさ! ほらあ、陽妃いの涙が止まってるよー」


「あ……」


そのおまじないの効力なのかは、分からない。


でも、確かに、もう涙は止まっていた。


海斗は本当に不思議な男の子だった。


いつも、こんなふうに、あたしの涙をどこかへ連れ去ってしまうような、優しい波みたいな子だった。


「陽妃はひとりじゃないよー。おれがいつもそばにいるからさあ」


そう言った海斗の笑顔は、日が暮れた浜辺でも、嫉妬してしまうほどまぶしかった。


たそがれ色の空に、ぽつりと輝く一番星。


夜が訪れ始めた潮風に、黒い髪の毛がさらさらなびく。


「ありがとう、海斗」


くすぐったそうにはにかんだ海斗が、手のひらを差し出してきた。
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