泣き顔にサヨナラのキス
 

 
人の気配で目が覚める。


視界に映る見慣れない部屋に、原口係長の部屋に泊まっているのだと思い出す。


そしてあたしは、原口係長が眠っているのを確認すると、現実から逃げるようにまた目を閉じた。



どうして、あの時自分の部屋に帰らなかったのだろう。


あたしは、ただ怖かった。


目の前で孝太があたしではなく、山本さんを選ぶのではないかと疑ってしまった。


あたしは、孝太を信じられなかった。


一度深く傷つくと、二度と同じ場所に痛みを受けないようにと、そんな防衛本能が働くのだろうか。


孝太のことを想って、また涙が零れた。




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