泣き顔にサヨナラのキス


「暇なら、軽く読んでおけ」


あたしが視線を向けると、原口係長は既にパソコンの画面を見詰めて仕事をしていた。


あたしのこと見てたんですか?


なんて訊けるわけも無く。


「な、投げないで下さいよ」と呟いてみても、原口係長からの返事はなく、カタカタとキーボードを叩く音だけが事務所に響いた。



始業時間が近付いてくると、ポツポツと事務所に人が増えてきた。


もうすぐ、孝太が出社してくる時間。


顔を見て出来るだけ明るく声を掛けよう。


無視されるかもしれない。だけど、何でもいいから話す切っ掛けが欲しかった。




< 261 / 614 >

この作品をシェア

pagetop