泣き顔にサヨナラのキス
水彩画の中の美女。そんな雰囲気の涼子さんと目が合った。
はんなりと微笑んで、声が掛かったテーブル席へと移動する。その姿を見送って。
あたしには、ずっと気になっていたことがあった。
「原口係長は、どうして婚約解消したんですか?」
原口係長は、前を向いたまま「前にも言っただろ?」と呟いて、筑前煮を口に運ぶ。
「……婚約者の方がホストにお金を貢いだって。でも、本当の理由は違うような気がして」
違和感があった。原口係長と婚約しているのに、そんなこと有り得るのかと。
「あー、うん。そうだな、本当の理由は別にある。で、そんな事を聞いてどうするんだよ?」
チラリとあたしに視線を移して、それから、原口係長は手元の冷酒を飲み干した。