泣き顔にサヨナラのキス
日が落ちた空を見上げると、瑠璃色から藍色にその表情を変えようとしている。
ゆっくりと流れる雲の狭間から、朧げな三日月が顔を出すと、何故だか急に原口係長に会いたくなってしまった。
立ち止まったあたしに気が付いて、田中君が振り向いた。
「足、ツライ?」
そんな、優しい言葉を掛けないで。
「田中君、ごめんなさい。あたし、やっぱり帰ります」
「ちょっと、待って」
田中君があたしの手首を掴んだ。
「やだ、離して」掴まれた腕の力強さに驚いて、泣きそうな声が出てしまう。