泣き顔にサヨナラのキス
目立たない所で、30分だけ待つ事にした。
なんとなく、今夜でなければ言えないような気がして。
逢いたい。一分一秒がとても長く感じてしまう。
時間は八時過ぎ。花火はとっくに始まっている。残してきた田中君の事を想うと胸が痛んだ。
どれぐらい経ったのか、一台のタクシーがマンションの前に停まった。
期待のあまり鼓動が早くなる。息を呑んで見詰めていると、タクシーから降りてきたのは、間違いなく原口係長だった。
嬉しさのあまり駆け寄ろうとした瞬間、後部座席に女性が座っていることに気が付いてしまった。
「あっ、」
声にならない声が漏れて、慌てて身を隠そうとしたけど、あたしの声に振り向いた原口係長と目が合ってしまった。