泣き顔にサヨナラのキス
  

その場に縫付けられたように動けないあたしは、ただ呆然と原口係長を見詰めることしか出来なかった。


「どうした?」

ゆっくりと近付いてくる原口係長の後ろに、何事かとタクシーから顔を覗かせる女性が見える。

とても綺麗な大人の女性。原口係長とお似合いだろうと想った。


と、その時「けんちゃん?」不安そうに女性が声を掛ける。

そのとても親しげな呼び方に決定的なショックを受けた。


……少しも勝てる気がしない。艶やかな色気のある女性。

原口係長の恋人なんだ。そう結論付けるまで時間は掛からなかった。


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