泣き顔にサヨナラのキス
 

原口係長の切れ長の瞳を見詰めると、何故だか目を逸らされてしまった。

「ど、どうしたの?」

やだ、やっぱり好きじゃないなんて言わないで。

そんなあたしの心配を他所に、原口係長はバツが悪そうに頭を掻いた。


「……悪い、帯の解き方がわからない」

困ったようにボソッと呟く原口係長が可愛くて笑ってしまった。


「笑うなよ」

「だって、女の人に慣れていそうなのに、そんなことを言うから」

「あのな、お前は俺を何だと思っているんだ?」

キッと睨んであたしの頬をつねる。

「痛っ」と言いながら、二人で笑って。

こんな些細なことが、嬉しくて幸せで、泣きそうになってしまう。




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