泣き顔にサヨナラのキス
 

「どうして、泣くんだ?」

原口係長が長い指先でそれを拭うと、優しくキスを落とす。


「なんだか、嬉しくて」

「バカ。そんな事でイチイチ泣くなよ。まだ、始まったばかりだろ、俺達」

「そうですよね」

「じゃ、取り合えずシャワーでも一緒に浴びるか?」

「なっ、何言ってるんですかっ」

慌てるあたしを強引に抱きしめて「冗談だよ。本気にするな、バカ」と笑うあたしの愛しい人。

一緒にシャワーが実現する日は遠くないけど、今夜はいつものようにベッドの中で原口係長を待っていたいから。

原口係長を残して、バスルームに向かった。

髪を乾かして寝室に戻ると、原口係長はスヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立てていて。

意外に長い睫毛や、通った鼻筋、薄い唇を見詰めていたら、いつの間にかあたしまで寄り添うように眠ってしまった。



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