割り切りの恋人たち
 ──俺たちは精算を済ませホテルの外に出る。
 陽はてっぺんまで昇っていた。
 駅までの道中、弘美は終始しゃべりかけてくる。
 あの時と変わらない心地よさを、俺はなんとなく懐かしんでいた。
「そう言えばよ、俺のいた高校さ廃校になったの知ってる?」
「えー、そうなの。知らなかった」
「なんかさ少子化で人がいねぇーんだとよ」
「そうなんだ……」
 春の暖かい風が吹き抜ける。
 18年前と同じ空に同じ風。
 18年前と同じトキメキ。
 そして何も変わらない、屈託の無いふたりの笑顔。
 そんな素敵な80’s。
 ネットも携帯電話もなかったけど、俺は弘美といたあの時の楽しさを今でも覚えている。
 こうして肩を並べて歩いていたんだ。
 この街の中を……。
 たったひとつだけあの頃と違うことがある。
 ひとつだけ例外を除けば。
 そう、それは大人になっちまったふたりを除けば……。 
「今日、楽しかった。ありがと」
 弘美は嬉しそうに微笑んだ。
 俺たちは肩を並べて駅に向かう。
 昔、何度も歩いたこの商店街。
「ねぇ、みてみて、このお店まだあるよ」
「あっ本当だ。この骨董店懐かしいな。まだあったんだ。もう18年も経つのにな」
 ふたりでガラス越しに骨董店の置物をみている。日本刀やら壷やら、兜やらが飾ってある。あまりジロジロみてていると、お店の人に、いちゃもんをつけられそうなので、足早にその場を後にした。
 ふたりの思い出がたくさん詰まったこの街。
 昔、映画もみに行ったけかな。
 弘美は俺の左側を歩いている。
 歩調も同じ。
 交差点に差し掛かる。
 平日の昼間だが、人の波が押し寄せてくる。
 ふたりはなんとか前から来る人々を交わし、横断歩道を渡りきる。
 社会に出てから何一ついいことなかった俺だけど、社会に出てからはじめて、心の底から楽しいと思える出来事に遭遇した。
 たとえそれが割り切りであったとしてもだ。
 それに、もしも割り切りをやっていなかったら、弘美とは2度と出会うことはなかっただろう。
 。
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