ドラマチックスイートハート
すると、後にも遠山との演技を控えている天崎がポンと石垣の肩を叩き、こっそり耳打ちした。
「もう少し顔を明るくしてみ。本当に恋人と過ごして出てくる朝を想像しながら」
そう言われると、真っ先に天崎を想像してしまう。
あの部屋で天崎と過ごし、それを見送られて出てくる姿……
確かに心が少し踊る。
それを試すと……
「カット! はいOK!」
早々と監督の丸をもらえた石垣。
それは、五回目の撮り直しの事だった。
ようやく自分の出番は済み、遠山の元に行く。
「すみませんでした。何度も何度も……迷惑をかけないよう、精進します」
すると、遠山は意外にも気さくに返してくれた。
「おお、気にするな。最初はまあ、こんなもんだ」
その言葉に少し驚く。
特段普通の人。
あれだけ何回も撮ったのに、厳しい言葉はなかった。
現実世界は、そこまで変な人はいないと言う事だろう