LOVE*PANIC
でも、それとこれとは別だ。
そんなことで簡単に付き合ったりは出来ない。
それに何より、今の自分にそんな余裕はない。
いや、余裕の問題ではない。
一歌の頭の中に、はっきりとそう浮かんだ。
「どう? こういうの」
修二は勝ち誇ったような表情を作り、一歌の顔を覗いた。
「……違うと思います」
一歌はそんな修二の顔を見ずに、小さい声ではあるが、はっきりとした口調でそう言った。
「何が?」
修二はそれに対し、微かに首を傾げる。
一歌はぱっと顔を上げ、修二の目を真っ直ぐに見た。
「こんなやり方で売れるのは違います。あたしは、あたしの力で売れたいんです」
一歌はきっぱりと自分の意思を告げた。
たったこれだけのことを言うのに、心臓がえらく跳ねていることに驚いた。
売れれば何でもいいわけではないのだ。
例え、このチャンスで一気に売れたとしても、それは自分の実力ではない。
だから、この誘いに簡単に乗るなんてことはしない。
一歌はしっかりと自分の気持ちを口に出来たことに、自分ながら少々誇らしい気分になった。
だが、その高揚した気は、次の修二の言葉でいとも簡単に下げられたのだ。
「……実力で無理だから、燻ってんじゃないの?」
一歌は後頭部を思い切り殴られたような衝撃を受けた。
痛いところを突かれただとか、図星だとか、そんな程度の言葉では片付けられない程の衝撃。
一歌は震える手を握り締めた。
怒りでなのか、悔しさでなのかは分からない。
もしかしたら、その両方なのかもしれない。
修二に言われなくとも、知っているし、とっくから分かっている。
だが、ずっと、それに気付かない振りをして、言い訳を繰り返してきたのだ。