LOVE*PANIC
「送って頂いて、ありがとうございました」
一歌が丁寧に頭を下げるのを見て、修二は微笑んだ。
この世界で、礼儀は一番重要なことだ。
この子は最初から自分にはきちんと敬語だったし、それを理解している。
たった数日だったが、教えることはもう何もない。
「どういたしまして」
修二はそれだけ言い、車を走らせた。
一歌が降りた後の車内は急に寂しく感じたが、一時の気の迷いだろうと、それを振り払った。
今まで、自分の周りにいるどの女とも違う。
そして、歌に対して真っ直ぐなところが彼女によく似ているから――……。
修二は車を路肩に停め、携帯電話取り出した。
そして、着信履歴から電話をかける。
五コール目で、もしもし、と声がした。
修二は小さく息を吸ってから、彼女の名を呼んだ。