LOVE*PANIC



「送って頂いて、ありがとうございました」


一歌が丁寧に頭を下げるのを見て、修二は微笑んだ。


この世界で、礼儀は一番重要なことだ。


この子は最初から自分にはきちんと敬語だったし、それを理解している。


たった数日だったが、教えることはもう何もない。


「どういたしまして」


修二はそれだけ言い、車を走らせた。


一歌が降りた後の車内は急に寂しく感じたが、一時の気の迷いだろうと、それを振り払った。


今まで、自分の周りにいるどの女とも違う。


そして、歌に対して真っ直ぐなところが彼女によく似ているから――……。


修二は車を路肩に停め、携帯電話取り出した。


そして、着信履歴から電話をかける。


五コール目で、もしもし、と声がした。


修二は小さく息を吸ってから、彼女の名を呼んだ。






< 84 / 109 >

この作品をシェア

pagetop