LOVE*PANIC
「一歌、いい曲ないのか?」
柴田のその一言で、一歌は一気に現実へと戻った。
「……え?」
一歌は口をぽかんと開け、柴田の顔を見た。
「今の中に、ぴんとくる曲なかったか?」
柴田の言葉に、一歌は青ざめた。
一歌の意識は変なところに飛んでいたのだ。
一歌は慌てて、取り繕うように首を横に振った。
「いい曲ばっかだから、迷っちゃって。もう一度聴かせて貰っていいですか?」
一歌の嘘の言葉にうんうんと頷く柴田に、一歌は彼が単純な人でよかった、と思った。
この場には、ドラマのプロデューサーもある、大事な打ち合わせだ。
一歌が担当する、修二のドラマの曲の見本を聴く為に集まっていた。
幾つかの曲を再度流し、一歌、柴田、プロデューサーの一致で決まったのは、冬らしいミディアムバラードだった。
今はまだ秋前だが、リリースは冬になる。
歌詞は一歌が書くことで決まり、一歌には三話までの脚本が渡された。
一歌は今までにも何度か作詞はしたことがあったが、タイアップがつくようなものは初めてだった。
タイアップがつけば売れる可能性があるので、大体プロのライターが書いていた。
だが、今回は最初からある程度のセールスが予測されている為、一歌が作詞をしても問題ない、ということになったのだ。
一歌は逆にプレッシャーを感じた。
プロデューサーからは、ドラマの内容を交えた歌詞にはしなくてもいい、とは言われたものの、どうしても意識してしまう。
一歌自身、ドラマの主題歌は、その内容に合っていれば合っている程、いい曲に思えていた。
視聴者の中には、そういう人は沢山いるだろう。