穢れなき獣の涙

 ──その夜、アレサはとある部屋の扉を叩く。

 扉をくぐると、静かな空間にやや冷たい空気が漂っていた。

 まるで、アレサの心情を物語るかのように肌に少しの痛みを与える。

 そこは、シレアたちが通された部屋よりもふた回りほど狭く、落ち着いたタペストリーが壁に飾られ蝋燭の明かりが温かく室内をほんのりと照らしていた。

「どうしたのかね」

 いつもと変わりない面持ちのアレサだったが、キケトは何か悩み事があるのだと気付いていたようだ。

「キケト様、お話ししたいことが──」

 神妙な面持ちで語り始めるアレサに、長老はただ黙って耳を傾ける。

 それほど親しい間柄とは思えなかったシレアとユラウスには、とても大きな運命が待ち構えていること。

 さらに、アレサもそれに関わっていること。

 それらはキケトを大いに驚かせた。

 真実なのだろうかと疑うも、嘘とも思えないからこそ、アレサはここに来た。
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