穢れなき獣の涙
 しかし回数を重ねるにつれ、それも億劫(おっくう)になってくる。

 それにも増して、口づけから先に進むことなど何一つない事実に気が滅入る。

 男にとってそれは酷でしかなく、それ以上のことを想像しても下半身は魚だ。

 たちまちに萎えていく。

「マーメイドのウィザードは人間に変身出来ると聞いたが」

「そこまでしてくれりゃいいけどな。生憎と口づけで終(しま)いだ」

 まあ、そこで終わってくれねえと、怖いもんが待っているけどな──そんな言葉を口の中でつぶやいた。

「お? 終わったようだ。上げてやれー」

 手を振って早く上げろと合図しているシレアに手を振り返す。

「ご苦労さん」

「言ってくれる」

 しれっと言ってのけるネドリーに呆れ、海水でずぶ濡れになった服を早く脱ぎたいと顔をしかめる。
< 171 / 464 >

この作品をシェア

pagetop