穢れなき獣の涙
 問題はリンドブルム山脈を越えられるかどうかだ。

 鋭く切り立った岩山は、足を踏み入れる者たちを容赦なく谷底に突き落とす。

 そしてその頂上には常に雪が降り積もり、旅人を凍えさせようと待ちかまえていた。

 危険な動物やモンスターも多く棲み、誰しもが安直に山を越えようなどとは思わない。

 ──そんな山脈の入り口に十七歳になったシレアは立っていた。

 そびえ立つ岩山を見上げ一度、深く息を吸い込んで意を決して足を進める。

 いつもより厚めの服を選び、バックパックには保存食を詰め込んできた。

 シレアが住んでいる集落はこの山脈にほど近い西の辺境にある。

 よって、ここまでの道程はさして辛くはなかった。
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