穢れなき獣の涙
 シレアはここに到着するまでのあいだに、セルナクスが話してくれたことを思い起こす。

「オレは、あいつみたいに強くないから」

 それは腕前という意味ではなく、精神という意味で語ったのだろう。

 敵を目の前にして逃げるということではなく、日常における厳しさを意味していた。

 セルナクスは弓に長けている。

 空中の大陸において、弓を扱える者は衛兵としてとても重宝される。

 しかし彼の場合、性格に難があった。

「規則とか、苦手なんだ」

 規律を重んじる兵士には不向きなことを本人が一番、理解していた。

 どうして一緒に近衛にならなかったのだと時折、不満を漏らすセルナクスに、この性格ばかりはどうしようもないからと繰り返す。

「ああ、オレはなんでこんなにだめなんだって思ってた」
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