裸足のシンデレラ
ぎゅっと抱きしめられる身体。
ふわっと香る、彼の匂い。
後頭部に回った手が、さらに私と彼の距離をゼロにする。


「…普通、キスの前にこれだよなぁ…先走り過ぎた。」

「何の反省よ、それ。」

「…あー…やべ。これ、すっげー気持ちいい。離したくなくなる。」

「調子いいこと言わないで。」

「つれないなー里穂。」


ちゅっ…
耳元で聞こえた甘いリップ音に、一瞬何が起こったのか分からなくなる。


「な…なにして…?」

「ほっぺちゅー。あれ?里穂、口にちゅーした時よりこっちの方が照れてない?」

「なっ…そんなことあるわけないでしょ?」

「照れてるー♪」

「帰る!!」


私は思いっきり突き飛ばして車を降りた。
…不覚だ。奴のペースにはまってしまうなんて。


「里穂。」

「何よ?」

「また、遊ぼうな。つーか電話するー。」

「勝手にして!!」



玄関の戸を閉めた後に聞こえる、車が遠ざかっていく音。
奴は律儀にも私が家に入るのを見届けてから出発したらしい。



「…隙が多かったのかしら、私…。」


私はそっと唇をなぞった。


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