彼岸と此岸の狭間にて
「再生した葵の成長を18年待って、それから葵の脳を体の方に移植する…」            
「それは可能なのですか?」

「これからプログラムを作成する……『クローン』化に1年、そして、葵の止まった時間が動き出すのに18年……」                   
「19年ですか!?…長いですねえ…」                  
「長い!でも、親としての私が今出来ることはこれしかない!!」

「葵君はこれからも夢を見続けていくんですねぇ…止まった時間の中で…」              
「………」                   

いつの間にか雨が降り出していた。

篠付く雨。

『椿』の庭の青々とした葉に静かに降り注ぐ。その葉先の水滴が地面にゆっくりとゆっくりと落ちていく。                                                                                                                                                                                



それから10年後。                           
「美優!!いつまで支度に時間を掛けているの!!」            

「今、行くわよ!!」              

2階から1階に表れたピンクのドレスを着た女性の美しさは筆舌に尽くしがたい。


艶やかで流れるような黒髪を後ろでひとつに纏(まと)め、細長く切れのある眉毛に、澄んだ瞳に大きな目。

鼻は筋が通っているものの高からず低からず。

赤いルージュが引かれた潤いのある小さめな唇に、白い歯が零れる口。

しなやかな体付きに色香の薫る肢体。豊胸と腰から下への絶妙なバランス。

これを絶世の美女と呼ばずして何と呼ぼうか?                 
紫馬美優、24歳である。
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