彼岸と此岸の狭間にて

6畳の部屋で焼香を済ませる。                      
先程の人がオレンジジュースと『香典返し』を持って来てくれた。                  
「これは…?」                  
「まだたくさんあるから大丈夫!」                    
静かに笑う。                       
「生前、父親の相手をしてくれてありがとね」

「いえ、僕はただ…」              
「こんな辺鄙(へんぴ)な所だから客も殆ど来なかっただろうし、数年前に母も亡くしてるから随分淋しかったと思うんだ…

何度も『一緒に暮らそう』と言ったんだけどね…」            
目に光る物が見える。              
「『どうしてもここを離れるわけにはいかない』って…ごめん、湿っぽくなっちゃった…」

「いえ…」                   
葵も胸が締め付けられる。            
「あっ、そうだ!遺品を整理していたらある物を見つけたんだ…ちょっと待ってて…」                     
その男性は店の方へと出て行った。                                                                                
「これなんだけど…」              
手に古い『巻き物』を持っている。                    
「何ですか、それは?」             
「うん、どうやら家系図らしいんだけど…君、名前は?」

「紫馬と言います」               
「やはり、そうか!?」             
「えっ?」
< 26 / 207 >

この作品をシェア

pagetop