夏の事。
ユラリユラリ……。

あかりが歩いてる状況を他人が見て形容するとしたら


まさにこの状況だった。



夜だけど。



ここまで人の顔も車のライトも、何も映らないのは初めてだった。


それでも、思わず高くそびえ立つ、この大都会の象徴であるタワーを見上げる。


時計は23時をまわっていた。


けど、あかりの目にはライトアップされていないように見える。


良く見ると周りも誰もあかりの目には何も映らない。

まだこんなに沢山人がいるのに。

こんなに電気が点いてるのに。

歩いてる人の顔があかりにはわからなかった。

それどころか、どんな服装をしていて、歩いてる人の性別さえも。


(……目の前が真っ暗になるって、こんな感じなのかな………。)


あかりは何だか自分の置かれている状況が、何だか自分の事ではないように感じていた。



そんな気持ちでいながらも、アヤトの家に着いてしまった。


(…なんて話そう…。わかんないよ…。どうしたら良いの?)


右手にバッグ。
左手に妊娠検査薬を握り締めているあかり。


意を決して、アヤトのマンションの中に入った。

< 15 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop