『霊魔伝』其の弐 火の章
家の裏から続く小道をすすみ、山の中腹程まで登ると、小さな神社があった。
武寅と零次朗の二人は、その神社に参り、さらに登った。
ちょうど村と海が見える少し開けたところまで来ると、武寅が言った。

「零次朗、これより修験場にはいる。気を引き締めておけ。下界と違い、ここにいる霊魔は位が上の方じゃ。おまえに近づく霊魔に注意するのじゃ。」

「小太郎もついていくと言ってるけど、どうしたらいいかな。」

「連れて行くがよい。小太郎も一緒に修行することになる。小太郎だけではない。おまえが名前を付けた霊魔はすべて、おまえと運命を共にすることになる。」

零次朗は振り向いて、武寅には見えない小太郎に向かって言った。

「小太郎、頑張ろうな。」
《零次朗、俺たち友達。共に生きよう。他の連中も心はひとつと言っている。》
「ああ、知っている。みんなの声が聞こえる。」

零次朗は周りを見回した。

しばらく歩くと、急に静かな場所に来た。
先ほどまで聞こえていた鳥のさえずりや木々のざわめきも消えている。

風も吹いていない。

武寅が立ち止まって振り向いた。

「零次朗、これは一族に伝わる霊剣と首飾りじゃ。」

武寅はそう言うと、小さな剣と八個の曲玉が着いた首飾りを取り出した。

「この剣は魔を払うと言われる剣じゃ。前の持ち主はおまえの父じゃ。そして、これは魔封珠といい、霊魔を封じることのできる首飾りじゃ。この大きな八つの珠に霊魔を封じ込める事ができる。これはおまえの母佐緒里のものじゃ。」

《零次朗。俺もその珠の中にいた。佐緒里に会うずっと昔から、閉じこめられていた。俺は佐緒里に零次朗が生まれる前に解放してもらい、その恩返しとしておまえを守る約束をした。だから俺は佐緒里をどうしても助けなければならない。》

「そうか、小太郎。俺も同じだ。少しでも早く助けたい。そして会いたい。」

零次朗は剣と魔封珠を受け取り身につけた。
< 9 / 57 >

この作品をシェア

pagetop