『霊魔伝』其の弐 火の章
「零次朗よ、聞くがよい。この先はおまえと小太郎とで行くのじゃ。わしはここまで。これ以上はゆけぬ。」

「じいちゃん、どうすれば良いんだよ。」

「この先は、霊魔たちが教えてくれる。この修験場には、我が一族と契約した霊魔がいる。彼らが師となるであろう。さあ、行きなさい。」

覚悟を決めて進んでいくと、大きな鳥居があった。
その向こうには、大きな神社が建っていた。

「あんな大きな神社なら、村からも見えそうなのに、全然気がつかなかった。」

《あれは、下界からは見えないよ。結界の中だけに存在する神社だから。結界は陰と陽の世界の狭間にある隔離された空間で、人間と霊魔の協力がないと維持できないんだ。あの鳥居の向こうが結界。一度入るとなかなか出られない。佐緒里でさえ三ヶ月かかった。》

「三ヶ月だって。その間ずっとこの中にいるの。飯とか風呂とかは。」

《無い。けどこの結界の中では必要ない。時間が流れているようで、止まっている。だから、ここ中では時間の感覚はない。でも外では流れており、修行の内容や零次朗の力の強さで流れる時間が決まる。強ければ強いほど、時間は短いようだ。普通の人間なら百年かかっても、出られない事もあるだろう。》

「何でもいいから、さあ行こうぜ。」

零次朗は歩き出した。
その後を小太郎が追った。

鳥居が近づくと、その傍らに老人が座っているのが見えた。

その老人はずっと零次朗を見つめている。

あと数歩というところで、老人はすっと立ち上がると笑った。

《来たね、待っていたよ。さあ、ついておいで、ここでの約束を教えてあげよう。》
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