ゼロクエスト ~第2部 異なる者
「やっぱりアレックスは、かなり無理をしていたようだな。まあ、そんなことだろうとは思っていたけれどね」

「どういうこと?」

「通常敵と戦闘に入った場合には、能力をある程度まで押さえつつ、余力を残して戦わなければならない。
余力がなければ戦況を見通す判断能力を鈍らせたり、予想外の敵が出現したとしても、戦力がもう残されていないという状況に陥ってしまうからね」

ある程度の余裕を持って戦うのは、術士としては当然の行為である。毎回全力で戦っていたら疲れるし、次の戦いにも支障が出る。

「ところがアレックスはその余力――先のことを全く考えないで戦っている。例えどんな弱い敵にでさえも同様の力を発揮しているのさ。
だから戦闘が終わる度に体力のほうは、かなり消耗されているはずなんだ」

「え……つまりアレックスはいつも、どんな弱い敵に対してさえも、同じように手加減なしで戦っているってこと? でも疲れているようには見えないんだけど」

あまり体力を消耗しているようには感じられなかった。戦闘が終わっても疲れを見せず、いつでも涼しい顔をしていたからだ。

「それは自分が『疲労している』という、自覚がないからさ」

「は?」

「『疲れる』という状態がどういうものなのか、本人は全く理解していないんだよ」
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