ヴァンパイア王子~覚醒のblood~
まだ指定の時刻までには時間があった。


けれど、その時間まで待っていられない。


生贄が茜だとしたら、儀式の時間までに救いださなければいけない。


9時はタイムリミット。


人間でいられる時間を諦めたことによって、不思議と力が湧いてきていた。


歩くたびに、薄い鱗(うろこ)が剥がれ落ちるように、人間の怜央がいなくなっていくようだった。


心が冷えていく。


自分は消えてしまっても、茜だけは助けたい、その一心で学校へと向かった。


塀の間から校舎の屋根が見える場所まで、近付いてきた。


もう少し。


近付くたびに、心臓の音が低くなっていった。


空は曇っていて月の明かりを隠し、夜の暗闇は濃く深くなっているはずなのに、遠くのものさえもはっきりと見えた。


校舎に飾られてある、大きな時計の針が8時を指し、夜中に鳴るはずもないチャイム音が不気味に鳴り響いた。

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