例えば私がアリスなら



試しに結菜の周りを一周してみる。

すると白い兎は結菜に抱えられたまま、移動する私をジーッと目で追ってきた。


一同沈黙。




「…………真琴のこと、親だと思ってるんじゃないか?」


「ええー……産んだ覚えないんですけど……」


「そうですよ、可哀相じゃないですか。兎が」


「どういう意味だよ」



刷り込みって言うんだっけ?
雛が生まれて一番最初に見たものを親だと思うってやつ。

が、兎に通用するかは謎だね。
それ以前にこの兎は生まれたばかりには見えない。
オシャレだし。



「きっとこのうさぎは真琴のことが好きなんだね!」


結菜が花が咲いたような笑顔で私に兎を差し出してきた。

……私、動物に好かれる体質なのかな?



結菜によって私の顔の前に差し出された兎は、私の目から視線を逸らさない。

相手は可愛らしい白い兎。
なのに、何故か私まで目を逸らせなくなった。

小さなその瞳に私の全てが見透かされるような気がした。
私自身も知らない様な、深く沈み込んでいる何かまで。



とにかくその澄んだ眼差しから逃れたくて、無意識のまま手を伸ばす。



あと少しで雪よりも白い柔らかな体に触れるところで



「あ」


結菜の手を抜け出て逃げてしまった。

行き場を無くした手が虚しい。


「……さすが先輩、好かれてますね」


完全嫌味だ!月江がにやーって憎たらしく笑ってる!


それにしても、結菜が抱っこしてる時はおとなしくしてたのに、失礼しちゃうわ。


遠ざかる白い後ろ姿をぼーっと眺めていた。
追い掛ける気にもならない。
あのお話のアリスじゃあるまいし。

一応そのアリスである結菜は私の隣で「あーあ」と残念そうに肩を落とすだけ。
やはり追い掛けない。

最近の高校生はいろんなことに関心がなさすぎるのかもしれない。


高校の廊下で可愛らしい生物と会うなんて貴重なイベントが、驚くほどあっさりと終わった。




「飼い主にちゃんと会えればいいんだけど……」
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